マスコミの偽善キャンペーン(3)=その後どうなった?<八ツ場ダム中止>への非難は
◇前原誠司国土交通相が群馬県の八ツ場ダム建設中止を表明するや、地元自治体の長ばかりかマスコミ、特にテレビのワイドショーまでがいっしょになり、非難の大合唱ときた。◇おまけに2009.10.19には、6都県(東京・群馬・栃木・茨城・埼玉・千葉)知事の現地視察というミエミエ・パフォーマンスまで挙行され、反<建設中止>包囲網は頂点に達した。
◇石原慎太郎・上田清司・森田健作という受け狙いの面々にあって、それは格好の舞台だったといえるが、残念なこと、国民の反響たるや微々たるものにとどまった。◇これもまた、<政権交代>というパラダイム転換体験のいい影響だろう。◇クサいパフォーマンスへの見極めが身につき始めているのだ。コイズミ劇場や安倍晋三ブームに懲りた分だけ。
◇一方のテレビはといえば現金なもので、その後、米国大統領訪日にからむ普天間飛行場移設問題、民主党政権による<事業仕分け>等が前面に躍り出るや、八ツ場ダム問題など一気に<鎮火>し、口にのぼることすらなくなってしまった。
◇驚くにはあたらない。まさにいつものパターンというやつだから。◇その点で、マスコミ、特にテレビの姿勢は一貫していた。
◇しかし、火が消えた状態にせざるをえなかったのにはもうひとつ理由がある。◇<建設中止>反対キャンペーンを持続させるだけの論理的強さを、彼らテレビ自身が内包していなかったからだ。
◇言ってみれば、<弱者の側に立つ>という偽善的なスタンスだけがテレビのよりどころ。◇<ダム絶対反対>→しかし<最後は仕方なく建設を容認した>→<にもかかわらず今度は一転して建設中止>に。
◇住民の屈折した心情と生活を民主党は分かっているのか!オンリーの情緒的アプローチが、そう長続きするはずもない。◇ある程度の時間が過ぎたらハイさよならの、刹那的無責任<テレビ業界論理>がここでも大手を振っていた。
◇田中康夫長野県知事の時代にはあれだけ脱ダムに入れあげたマスコミや評論家が、今度は一転、中止される側の心情もくみ取れと居丈高に主張する。◇あれだけ公共事業投資を批判してきたマスコミや御用評論家が、いざ削減となれば、景気への影響は大丈夫なのか、二番底・三番底になるぞとエラそうに説教する。
◇盾の両面を行き来することで自身の善玉ぶりをアピールし、視聴者を引きつけようとのあざとさといったら嗤(わら)うしかないが、しかし世の中、相当変わってきているのを彼ら自身いまだ気づいていない。
◇八ツ場ダム中止にしても公共工事削減にしても、テレビが案じるほど国民は否定的にとらえていないのが実態なのだから。◇ゆえに最近のテレビはウケないし、視聴率もパッとしないのである。
◇こんなダメマスコミが多いなか、毎日新聞などは社説で以下のような正論を展開し、面目を保っている。
★★社説:鳩山政権の課題
八ッ場ダム中止 時代錯誤正す「象徴」に
毎日jp.・09.09.23
◇「この間、首都圏の水需要は減少傾向にあり、洪水対策としてのダムの有効性に疑問が示された。しかし、そもそもの目的が疑わしくなり、悪影響が指摘されながら完成した長良川河口堰(ぜき)、諫早湾干拓、岐阜県の徳山ダムを追うように、(八ツ場ダム建設では-筆者註)ダム湖をまたぐ高架道路、移転住民のための用地造成などが進み、ダム本体の着工を残すだけになった。まさに『いったん動き出したら止まらない』大型公共事業の典型である」。
◇「これに対して利水・治水のため建設費を負担してきた1都5県の知事は『何が何でも推進していただきたい』(大澤正明・群馬県知事)などと異論を唱えている」。
◇「(もう既に多くの投資をしてしまっているから-筆者註)単純に考えれば、このまま工事を進めた方が得である」。◇「だが、八ッ場だけの損得を論じても意味はない。全国で計画・建設中の約140のダムをはじめ、多くの公共事業を洗い直し、そこに組み込まれた利権構造の解体に不可欠な社会的コストと考えるべきなのだ」。
◇「『ダム完成を前提にしてきた生活を脅かす』という住民の不安に最大限応えるべく多額の補償も必要になるが、それも時代錯誤のツケと言える」。◇「高くつけばつくほど、二度と過ちは犯さないものである」。
◇IFSAはかねてより、田中康夫・天野礼子的な脱ダム論(=ダムはムダ。そもそもコンクリートは生理的に嫌い!)を根底から批判してきたくちだが、コトこの八ツ場ダムに関しては絶対反対の立場。◇ハナから<根拠レスのダム計画>があからさまだからだ。
◇これについての詳細は09.09.27の当IFSA通信<マスコミの偽善キャンペーン(1)=<地元無視の八ツ場ダム中止>という情緒的誘導>をまずはご覧いただきたい。◇それからすると、上記毎日新聞の社説にはたったひとつだけ誤りのあることが分かろう。
◇そう、「単純に考えれば、このまま工事を進めた方が得である」のくだりがそれで、これなどまさに「単純に考え」すぎている。◇そもそも、計画通りの金額で収まるなど誰が信じよう。
◇さて、ここのところ鳴りをひそめた八ツ場ダム報道よと思っていたら、ポロポロっと<品木ダム>の件が取り上げられ始めた。
◇品木ダムなど、八ツ場ダム関連を少しでもかじったことのある人間なら知らない者はいないキーポイント。◇にもかかわらず、マスコミは勉強不足で本当に知らなかったのか、それとも政治的意図からカマトトを決めこんでいたのか、火の消えた今ごろになって少しずつ伝えだしている。
★★群馬・品木ダム:「八ッ場」前提、ダムに難題
石こう堆積、処理追いつかず
強酸性の川、中和目的で建設
毎日jp.・09.11.10
◇「草津温泉の硫黄分などで強酸性の河川を中和する過程で生じた石こうを堆積(たいせき)させる目的で、群馬県六合(くに)村の湯川に建設された品木ダムが、満杯になる恐れが出てきた。堆積量がしゅんせつ量を上回り、湖底が水面下5メートルまで迫っている」。
◇「同ダムは鳩山政権が建設中止を表明している八ッ場(やんば)ダム計画を進めるため建設されたが、地元関係者は八ッ場の中止表明に続く難題への対応に苦慮している」。◇「苦慮している」って、表ざたになったことを?
◇「品木ダムは65年に完成。中和で生じる石こうと土砂は現在、年間約5.5万立方メートルがダムへ流れ込む。一方、しゅんせつ量は約3万立方メートル。総貯水量166.8万立方メートルに対し、08年度の堆積量は142.1万立方メートルで、85%に達した」。
◇そして、ここでしゅんせつした<一種の産廃>を貯蔵する陸地、それももはや限界といわれる。◇しかもこれらにかかるランニングコストはいったいどれほど?◇そもそも無理筋!のツケがここにも象徴的にあらわれている。
◇と思えば、今度は朝日新聞が・・・・・・・。
★★八ツ場上流、ヒ素検出を公表せず 国交省
asahi.com・09.11.13
◇「八ツ場(やんば)ダム(群馬県)の建設予定地の利根川水系の吾妻川とその支流で、国土交通省が少なくとも93年以降、環境基準を超えるヒ素を毎年検出しながら、調査結果を公表していなかったことが朝日新聞社の調べでわかった」。
◇「報告書によると、草津温泉を流れる湯川や、酸性の水質を改善するために設置された品木ダムの放水口、八ツ場ダム建設予定地から約10キロ上流の貝瀬地点では86年度以降、ヒ素濃度が高く、基準が強化された93年度以降は基準を上回っていた」。◇「08年度の平均値は湯川で基準の約100倍、品木ダムの放水口で約10倍、貝瀬地点で5倍を記録した」。
◇「吾妻川の水質は、草津白根山系の硫黄鉱山からしみ出す水や草津温泉からの水が流入して酸性が強い。1952年に計画が浮上した八ツ場ダムも、コンクリートが溶けることを理由に一度は断念された」。◇「だが、63~65年に、強酸性を改善するための中和工場や品木ダムが造られ、湯川など上流の三つの川に石灰液を投入して中和化が進められ、八ツ場ダム計画が復活した」。
◇テレビ朝日のワイドショーも早速これを取り上げたが、あれだけ威勢のよかった地元町長などは、国がいいと言っているから大丈夫!の一点張り。◇お~お、お里が知れたというところだろう。
◇ところでこの無理筋・八ツ場ダム問題を知るに格好の出版物がある。◇といっても大部なものではなく、たった70ページ弱の小冊子。◇『八ツ場ダムは止まるか-首都圏最後の巨大ダム計画-』(八ツ場ダムを考える会 編・岩波ブックレット・05.02)がそれで、定価は480円(税別)と安い。
◇このブックレットは、同じ岩波でも天野礼子『ダムと日本』(岩波新書)といったヒステリックといおうか、あるイミ<狂信的>な本とは違い、冷静な記述のオンパレードで何ともすばらしい。
◇八ツ場ダム建設は利水治水の両面からナンセンス、それに予想される浅間山の噴火や予定地の<熱水変質>を受けた地質からしても建設はきわめてリスキー。◇筆者は諄々と説いていく。◇どうか、往復の電車内ででもぜひお読みいただければと思う。
◇6都県知事や情緒に訴えるマスコミは、まずこの本の提示する論点をめぐって<公開討論会>を開く、そこからスタートすべきなのだ。◇政治的ではなく、あくまでも科学的・実証的に。
◇<八ツ場ダムが止まるだけでも政権交代の意義があった>とのIFSAの見方は、あながち暴論でもなかろう。◇わが世代の全共闘風に言えば、<一点突破・全面展開>てな感じで。
◇冗談はともかく、政権交代なかりせば、あの6都県知事たちの妙な<論理>が表街道をずうずうしく闊歩(かっぽ)する。◇その一点だけでも気色悪いではないか。(敬称略)
★★[IFSA・阿部社会学ラボ]★★阿部道生★
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